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Tales from Both Sides of the Brain (Enhanced Edition): A Life in NeuroscienceTales from Both Sides of the Brain (Enhanced Edition): A Life in Neuroscience
(2015/02/24)
Michael S. Gazzaniga



今日の神経科学を代表する研究者の一人であるマイケル・ガザニガが,自身の研究人生を振り返る回顧録.

ガザニガさんが行ってきた分離脳研究の話題を中心に書かれている.分離能というのは,右脳と左脳が切り離された状態の脳のこと.てんかんの発作を抑えるために両脳をつなぐ脳梁を切断するという治療がある.(驚くことに)治療後も支障なく生活できるのだが,この分離された右脳と左脳は,別々に考えているのかということが大問題となる.実際,右脳の情報は左脳に共有されていない(逆も然り)らしいということを,ガザにガさんらの実験は明らかにしていく.また,右脳と左脳では得意とする機能が違うということや,右脳と左脳が別々に認識・判断しているにもかかわらず患者本人はそのことに違和感を覚えていないことなど,人間の脳の動作や意識の成り立ちについて分離脳の研究はものすごく大きな示唆を与えてくれる.本書では,著者らがそうした疑問をひとつひとつ解決していった経緯が,時系列で描かれる.

本書のもう一つの見所は,著者の研究者コミュニティの中での交友関係について知ることが出来る点だった.ガザニガさんの最初の師匠,ロジャー・スペリーをはじめ,クリック,ミルナー,リゾラッティ,ルドゥーなどなど,神経科学関係で思いつくビッグネームたちは,皆なんらかの形でガザニガさんと関わっていたことが分かる.奥さんがジャーナルの編集長をしていたり,娘たちも科学者になっていたりと,華麗なる科学者一家ぶりにも驚いた.また,分離脳の実験の様子をWebで公開しているのだが,それを見ると患者たち(J.W. などとイニシャルで言及される人々)と親しげに話したりしているのが印象的だった.そうした人間的魅力も,科学分野を新しく作り出すような研究者に必要な資質なのだろうと思わされた.

著者によると,シンプルな実験で分かる事実(“low hanging fruits”)はほぼ摘まれてしまったものの,分離脳研究が脳について明らかにしたのはまだまだほんのわずかだとのこと.これからは,単純なパラダイム(右脳はこれ,左脳はこれというような考え方)を乗り越えて,制御とかシステム論的な見方を採用していく必要があるだろうというようなことを言っている.(研究暦30年の大御所がそういうことを言ってくれると重みがあるし,ワクワクする.) 

脳研究の歴史の,教科書・科学書には書かれていない一面を教えてくれる一冊.脳研究に少しでも興味がある人にはおすすめです.


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