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Publishing and the Advancement of Science: From Selfish Genes to Galileo's FingerPublishing and the Advancement of Science: From Selfish Genes to Galileo's Finger
(2014/03/31)
Michael Rodgers



オックスフォード大学出版局などで,いくつもベストセラーを手がけてきた編集者による回顧録.彼が,これまでどんな著者に出会って,何を考えて本を作ってきたかを綴っている.

(以前,著者Rodgersさんの講演の感想は書いた:http://rmaruy.blog.fc2.com/blog-entry-32.html)

著者を口説くときの苦労話やら,出版社ごとの風土の違いやら,この本に書かれていることの多くは,もしかしたら多くの人にとってどうでもいい話かもしれない(だから値段もこんなに高い?).しかし,私からすると一流の編集者の考え方や米英の出版の実情を知ることのできるものすごく有難い本だった.

これまで,海外の出版社との実力の差を漠然と感じてきた.向こうの新刊カタログを見ると,量と質で圧倒的に凌駕されている.編集者の仕事の内容やレベルもまったく違うんだろうな,という気がしていた.けれどもこの本を読んで,やっていることはそんなに変わらないんだということ,そして「向こうの出版文化」も,それがずっと続いてきたものではなく,この本の著者のような人たちが試行錯誤でつくってきたものがわかった.たとえば,「ポピュラーサイエンス本がよく売れる」という状況は,ホーキング『ホーキング、宇宙を語る』を皮切りに始まった現象だとのことで,まだ数十年の歴史しかない.教科書にしても,「イギリスの教科書はアメリカでは売れない」というジンクスがあったらしく,アトキンスの教科書でその常識を覆したことなどが(自慢話気味に?)書かれている.「向こうはマーケットの大きさも書き手のレベルも全然違う別世界」という印象が,大分薄まった.

とはいえ,やはりスケール感とスピード感には差がありそうだ.印象的だったのは,著者が何回も転職しているということだった.著者のような凄腕の編集者でも,会社の方針で科学系の本の扱いが少なくなったりすると,転職を余儀なくされている.科学書出版のビジネスとしての成り立ちにくさを物語っていると思う.

***

自分の知的好奇心と商売人的食指を適度にブレンドして,「良い」本でありかつ「売れる」本を世に出していく.編集者の仕事って,やっぱりどこかギャンブル的な要素があって,あまり堅気な職業とはいえないかもしれない.でも面白い,と改めて思った.

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