03.12
Wed
※STAP細胞の件について一言
いまだにどう考えていいのか分からない.こういうことが起こりうる背景して,なんとなく考えられるのは,今の科学者にとって「論文を書く」のが至上命題になっているということだ.たしかに,僕らの修士の研究のレベルですら「嘘をつかない範囲で最大限に誇張し,正当性を主張する」ということはあった.しかし今回は,今まで前例のないほど大胆なmisconductが行われていたようだ.いったいなんのために...
しかも,Nature誌や理化学研究所などという,科学の一流の現場で起こったとなると,今後の波紋は大きそうだ.この先歴史に残る事件になるかもしれない.
一方で,この事件への人々の反応は興味深い(と思ってしまう).個人を糾弾する人,大学・研究所の体質を問う人,ジャーナルの査読制度の陥穽だと見なす人など,視点は様々だ.多くの人は「今後の精査を望む」というような少し距離をとった言いするけれど,これは,科学に少しでも関わる身としては,自分の問題として追いかけていくべきなのではないかと思う.「自分たちがやっている科学とは,今どういうものなのか」を考える絶好の機会として.
さて,〈最近読んだ本>.
数々の数学のスーパースターを輩出してきた京大数理解析研究所の歴史と,そこに活躍した(活躍中の)数学者たちの姿を描いた本.数学の分野ごとに,歴史を50年くらいさかのぼり,いろいろな数学者を登場する(有名なところでは,伊藤清,佐藤幹夫,森重文,望月新一など).数学の内容についての記述もかなり詳しく,半分以下しか分からなかった.それでも,著者自身が,数学と数学者のことを深く愛していることはよく伝わってきた.
個人的に面白いなと思ったのは,物理や数理工学への「応用」と,純粋数学の間を行き来しながら数学が発展していたということ.そもそもの「数理解析研究所」が,応用を念頭に創設された研究所だとは意外だった.
本書のタイトルは「古都がはぐくむ~」となっているが,異なる分野の人が,積極的に交流する風土が京都にはあるらしい.そういえば,京都在住の別の数学者の方も,そのように言っていた.京都に行ってみたくなった.
天気予報,ギャンブル,野球のスカウト,地震,気候変動など,さまざまジャンル「予測」を取り上げ,どの「予測」は当たって,どれは外れて,それはなぜなのかを解説している.
著者は実際に「大統領選挙の結果予測」や「野球の勝敗予測」で結果を出しているデータサイエンティストだけに,話が具体的で楽しかった.
興味深かったのは,著者は「特定の理論に頼った予測は失敗する」として,理論ではなくデータから予測を組み立てるべきと主張しながらも,「理論を捨ててはいけない」と言っているように聞こえることだった.
p.445 これだけは言いたい.科学は自分の仕事にとってそれほど重要でないという予測者,あるいは,予測は自分の仕事にとってそれほど重要でないという科学者には気をつけたほうがいい.この2つの活動は本質的に切り離せないものだ.
つまり,「予測」をするには,使える「科学」は使わないといけないということだ.
いろんな予測を成功させている著者だけに説得力がある.
「ノイズに埋もれたシグナルをいかに取り出すか」というのが本書の主題なのだけど,そもそも何が「シグナル」で何が「ノイズ」か,などについての深い話はなかった.そのあたりのことは『偶然とは何か――その積極的意味 』(竹内啓,岩波新書) に書いてあったような記憶があるので,読みなおしてみよう.
「なぜ,数学の哲学は存在するのか」.
個々の哲学的議論は,いろいろな知識が前提されていて,なかなかついて行けなかった.
いくつか本書から受け取ることができたことを箇条書きにしてみる.
・数学の哲学は,古今東西の人が関心を払ってきた普遍的な問題("perennial topic")を扱っている.
(ただ,数学の哲学に興味をもつのは,人間全体からすると,ごく一部だということを忘れてはいけない.)
・数学の哲学が扱う問題とは,①「証明とは何か」②「なぜ数学は使えるのか」.これに尽きる.
・「直観」について語るのはナイーブで,プロは「直観」という言葉を避けている.
・2000年以上心ある人たちが考え続けてきたにも関わらず,①と②への答えは出ていない.
哲学的考察で僕の何百周も先を走っているHackingさんでも,数学の哲学の2つの謎について,それが「謎」として残されているという認識では同じなのだ,ということは伝わってきた.
いま読んでいる『数学を哲学する』(シャピロ)は教科書的なので,そちらを先に読むべきだったかも知れない.この本には,もう一度チャレンジしたい(たとえば,たとえば「Hackingさんはどう『自然主義者ではない』のか.」など考えたい.)
いまだにどう考えていいのか分からない.こういうことが起こりうる背景して,なんとなく考えられるのは,今の科学者にとって「論文を書く」のが至上命題になっているということだ.たしかに,僕らの修士の研究のレベルですら「嘘をつかない範囲で最大限に誇張し,正当性を主張する」ということはあった.しかし今回は,今まで前例のないほど大胆なmisconductが行われていたようだ.いったいなんのために...
しかも,Nature誌や理化学研究所などという,科学の一流の現場で起こったとなると,今後の波紋は大きそうだ.この先歴史に残る事件になるかもしれない.
一方で,この事件への人々の反応は興味深い(と思ってしまう).個人を糾弾する人,大学・研究所の体質を問う人,ジャーナルの査読制度の陥穽だと見なす人など,視点は様々だ.多くの人は「今後の精査を望む」というような少し距離をとった言いするけれど,これは,科学に少しでも関わる身としては,自分の問題として追いかけていくべきなのではないかと思う.「自分たちがやっている科学とは,今どういうものなのか」を考える絶好の機会として.
さて,〈最近読んだ本>.
![]() | 古都がはぐくむ現代数学: 京大数理解析研につどう人びと (2013/11/20) 内村直之 |
数々の数学のスーパースターを輩出してきた京大数理解析研究所の歴史と,そこに活躍した(活躍中の)数学者たちの姿を描いた本.数学の分野ごとに,歴史を50年くらいさかのぼり,いろいろな数学者を登場する(有名なところでは,伊藤清,佐藤幹夫,森重文,望月新一など).数学の内容についての記述もかなり詳しく,半分以下しか分からなかった.それでも,著者自身が,数学と数学者のことを深く愛していることはよく伝わってきた.
個人的に面白いなと思ったのは,物理や数理工学への「応用」と,純粋数学の間を行き来しながら数学が発展していたということ.そもそもの「数理解析研究所」が,応用を念頭に創設された研究所だとは意外だった.
本書のタイトルは「古都がはぐくむ~」となっているが,異なる分野の人が,積極的に交流する風土が京都にはあるらしい.そういえば,京都在住の別の数学者の方も,そのように言っていた.京都に行ってみたくなった.
![]() | シグナル&ノイズ 天才データアナリストの「予測学」 (2013/11/28) ネイト・シルバー |
天気予報,ギャンブル,野球のスカウト,地震,気候変動など,さまざまジャンル「予測」を取り上げ,どの「予測」は当たって,どれは外れて,それはなぜなのかを解説している.
著者は実際に「大統領選挙の結果予測」や「野球の勝敗予測」で結果を出しているデータサイエンティストだけに,話が具体的で楽しかった.
興味深かったのは,著者は「特定の理論に頼った予測は失敗する」として,理論ではなくデータから予測を組み立てるべきと主張しながらも,「理論を捨ててはいけない」と言っているように聞こえることだった.
p.445 これだけは言いたい.科学は自分の仕事にとってそれほど重要でないという予測者,あるいは,予測は自分の仕事にとってそれほど重要でないという科学者には気をつけたほうがいい.この2つの活動は本質的に切り離せないものだ.
つまり,「予測」をするには,使える「科学」は使わないといけないということだ.
いろんな予測を成功させている著者だけに説得力がある.
「ノイズに埋もれたシグナルをいかに取り出すか」というのが本書の主題なのだけど,そもそも何が「シグナル」で何が「ノイズ」か,などについての深い話はなかった.そのあたりのことは『偶然とは何か――その積極的意味 』(竹内啓,岩波新書) に書いてあったような記憶があるので,読みなおしてみよう.
![]() | Why Is There Philosophy of Mathematics At All? (2014/01/08) Ian Hacking |
「なぜ,数学の哲学は存在するのか」.
個々の哲学的議論は,いろいろな知識が前提されていて,なかなかついて行けなかった.
いくつか本書から受け取ることができたことを箇条書きにしてみる.
・数学の哲学は,古今東西の人が関心を払ってきた普遍的な問題("perennial topic")を扱っている.
(ただ,数学の哲学に興味をもつのは,人間全体からすると,ごく一部だということを忘れてはいけない.)
・数学の哲学が扱う問題とは,①「証明とは何か」②「なぜ数学は使えるのか」.これに尽きる.
・「直観」について語るのはナイーブで,プロは「直観」という言葉を避けている.
・2000年以上心ある人たちが考え続けてきたにも関わらず,①と②への答えは出ていない.
哲学的考察で僕の何百周も先を走っているHackingさんでも,数学の哲学の2つの謎について,それが「謎」として残されているという認識では同じなのだ,ということは伝わってきた.
いま読んでいる『数学を哲学する』(シャピロ)は教科書的なので,そちらを先に読むべきだったかも知れない.この本には,もう一度チャレンジしたい(たとえば,たとえば「Hackingさんはどう『自然主義者ではない』のか.」など考えたい.)
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