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Is That a Fish in Your Ear?: Translation and the Meaning of EverythingIs That a Fish in Your Ear?: Translation and the Meaning of Everything
(2011/10/11)
David Bellos



プロの翻訳家でもある著者が,翻訳というものについて綴ったエッセイ.タイトルの"Fish in the ear"は,ある有名なSFに出てくる「耳の中に入れるとどんな言語も瞬時に翻訳してくれる魚」から取っているらしい.

煎じ詰めると,「翻訳」って良く考えてみるとそんなに単純なものじゃないんですよ,という本だった.

「良い翻訳とはなにか」についての誤解がある.
大体において,翻訳というものは評判が悪い.Amazonのレビューを見ると分かるように,翻訳に関する評価は「機械的」「堅苦しい」「不自然」「誤訳」などと総じて厳しく,「原作への"冒涜","裏切り"」などという感情的な表現で語られることも多い.私自身,不遜にも「翻訳がひどかった」など口にすることがある.逆に翻訳家をほめる言葉は,せいぜい「正確」「自然」などに限られる.
翻訳を批判したくなるのは,原文にあった素晴らしい何かが,翻訳では損なわれてしまっているように思うからだろう.何かが"lost in translation"なのだけれど,この本で著者が主張しているのは,何かが損なわれるような気がする原因が,訳が「正しくないから」だというのは誤解だということ.普通の人は「正しい翻訳」と「間違った翻訳」があると思っているが,それは嘘だと著者はいう.

「ある言語で書かれた文章(あるいは発言)を,別の言語の同じ意味の文章(発言)で置き換えること」が翻訳だとしても,「では二つの文章が同じ『意味』をもつとはどういうことか」が問題となる.
A is like B, with respect to C.
AとBの意味が一致しているかどうかは,文脈Cによって決まるということ.だから例えば,同じ物語の中の同じ同じセリフでも,訳す言語によって,あるいは媒体(小説の翻訳なのか映画のサブタイトルなのか)によって訳し方は変わってきたりする.

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「へぇ」と思うような,翻訳についての事実も多く盛り込まれていた.
「翻訳家」という職業の認知度が国によって違うというのが面白かった.英語圏では,「翻訳家」の数が圧倒的に少なく,また翻訳家という職業のステータスも,例えば日本に比べて低いらしい.背景にあるのが,翻訳の偏った流通量.当然ながら,ハブ言語として英語は圧倒的で,世界で行われている翻訳の70%は英語から他言語への翻訳で,10%が他言語から英語.(その他の「ドイツ語⇔フランス語」や「日本語⇔中国語」などは残りの20%を占めるに過ぎないらしい.)また,日本では「翻訳」が文化の中で重要な位置をもっていることを反映して,"translation"に対する訳語が,「翻訳」以外にもいっぱいある:誤訳,共訳,直訳,意訳,逐語訳,下訳,拙訳,対訳,超訳など...という指摘も.たしかに,と思った.


一つ残念なのは,翻訳に関する本は翻訳が非常に難しいという,有る意味皮肉な事実.例えば,英語とフランス語の対訳を並べて説明している部分を,日本語に翻訳したら訳が分からなくなってしまうはずだ.最近読んだHofstadterらの”Surfaces and Essenses"も,同じ理由で訳せない本になってしまっていると思う.いや,誰かの手にかかれば訳せるのだろうか.
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