10.13
Mon
![]() | The Sense of Style (2014/09/30) Steven Pinker |
スティーブン・ピンカーによる文章論・作文ガイド.
副題は"The Thinking Person’s Guide to Writing in the 21st Century".
「これまでにも,たくさんの文章論・作文ガイドは存在したが,
多くは偉い人が「こう書くべき」という手本を示すというものだった.
でも,現代の読者はそんな上から目線のガイド本に満足するか?
これだけ科学的な考え方が浸透したのだから,「良い書き方」にも根拠を与えるべきじゃないか.」
ということで,専門の言語学や心理学の知見も動員して,21世紀の書き手にむけた新しい作文の指南書を書いたのだという.
●書き方に気をつけるべき理由
ピンカーさんのアドバイスは『理科系の作文技術』(木下是雄 著)と重なるものも多かったが,違う点もあった.一つは,文章は必ずしも簡潔でなくてもいいといっていることだった.
I don't equate these virtues (clarity and coherence) with plain words, austere expression and formal style. You can write with clarity and with flair too. (序文より)
書き方(style)に気をつけて文章を書かなくてはいけない理由は
・正確に伝える.
・読者の信頼を得る.
・読む楽しみを与える.
ことだ.必ずしも「簡潔」でなくていいというのは,上記3番目の理由のためだ.
●書くとは・構文とは
「書くことは不自然である」.
話すことと違って,書くことは人間にそなわった基本的な能力ではない.まして,心の中で,紙に書き起こせるような文章が浮かんでくるわけでもない.
心のなかにはばらばらに考えが浮かぶのに対して,アウトプットとしての文章は,単語の配列(string).だから,文章を書くことは,心に浮かぶ概念のネットワーク(Web)を,単語の配列へ変換する操作なのである.
変換のための装置がシンタックス(構文論)とよばれるもので,それを意識しながら書けば,ひとまず正しい文が書ける.
ただし,正しいツリー構造には無数の解があるから,いかに読者の認知的負荷を下げるように語を並べるかが,書き手の頭の使いどころになる.
●まずい文章を書いてしまう原因・その治療法
まずい文章を書いてしまう一番の原因が”The Curse of knowledge”である.
つまり,自分が知っていることを読者も知っていると想定してしまうことだ.Curse of knowledgeから逃れるためには,とにかく他の人に読んでもらうこと,そして,(時間を置いて)自分に読ませることが重要である.
まずい文章のもう一つの原因は,自分のいる業界(アカデミア・役所・法文書・会社など)の書き方にとらわれてしまうということだ.そうならないために一番有効なのは,クラシック・スタイル(Classic style)を意識することだという.
クラシック・スタイルとは,これは,ThomasとTurnerという人たちの本で提唱されたもので,読者に「見せる」ように書く書き方である.
クラシック・スタイルは,
・読み手の五感にじかに訴えかける.
・読み手には書き手と同じ理解力があることを前提にする. (→読み手は,書き手が見ていることことをまだ見ていないだけ)
・書き手の自意識を出さない.
・書き手の迷いを出さない.(→実際には迷いがあったとしても,内容に自信を持っているというお約束のもとで書く)
リチャード・ドーキンスやブライアン・グリーンなどの一流の書き手は皆,クラシック・スタイルを使い手でもあるのだそうだ.
***
その他,文章の構成の仕方から,単語の選び方,カンマの打ち方,whoとwhomの違い,仮定法の考え方などなど,役に立つアドバイスも盛りだくさん.(そしてもちろん,単に「だめだからだめ」という書き方ではなくて,「なぜ」の部分がちゃんと書かれている).
仕事柄,日々大量の文章を読むが,決して「こりゃ上手くないな」と思ってしまうものも少なくない.けれど,「どこが?」と聞かれると困る.「だって読みにくいでしょう」としかいえない自分.会社の上司は「読者のほうを向いていない文章」という表現を使ったりする.
本書は,文章のどこが「読者のほうを向いていない」のか(あるいは端的に「まずい」のか)について,たくさんの語彙を用意してくれていて,編集者にとってはまさに助け舟.
もちろん書き手にとっても,重宝される本になると思う.
というか,一読者として,文章を書く人に読んでほしい.
ペーパーバック版で買い直してもいいかも.
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10.09
Thu
![]() | データの見えざる手: ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則 (2014/07/17) 矢野和男 |
『データの見えざる手』読了.非常に面白かったし,たくさんの発見があったし,素晴らしい本だった.ただ,いくつかもやもやが残った.
①一日の人の行動が,統計力学の(カノニカル)分布に従うという.このアナロジーはどこまでまともに取っていいのか.人の行動と分子の運動を生成するメカニズムに,なにかパラレルなものがあるようには思えず,悩んでしまった.
②もうひとつはデータ分析について.現行のデータサイエンスは結局のところ「職人芸」だが,著者らが開発した「学習する機械」を使えば,人の解釈を差し挟まずにデータに答えを出させられるという.本当に?