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06.18
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エンジニアリングの真髄―なぜ科学だけでは地球規模の危機を解決できないのかエンジニアリングの真髄―なぜ科学だけでは地球規模の危機を解決できないのか
(2014/03)
ヘンリー ペトロスキー



「エンジニアリングとは何たるか」を,エンジニアが綴った本.
上司に薦められて読んだ.

副題からも分かるように,「科学」と「エンジニアリング」の違いというのが本書のテーマの一つになっている.

科学は「知る」が仕事,エンジニアリングは「やる」が仕事だ.(略)しかし科学者とエンジニアは簡単に区別がつくわけではない.両者の目的や手法には重なる部分があるからだ.そのあいまいになりがちな区別を,本書ではできるだけはっきりさせていきたい. p28

エンジニアリングと科学はどちらも欠かせない.にもかかわらず,「科学」の方にスポットがあたることが多くエンジニアは不当な扱いを受けてきた.ありがちな誤解に「直線的な科学的思考のモデル」というものがあるが,これはまず基礎研究があり,その次に応用研究がなされ最後に技術開発がくるというもの.しかし歴史をみれば,エンジニアリングが科学を先導した事例は多い.この本では,アンテナ技師のだったカール・ジャンスキーが電波天文学を樹立した例などが挙げらている.

全編を通してエンジニアリングの地位向上が言い立てられているわけではなく,むしろ「科学とエンジニアリングの両方が必要だよね」というのが著者の主張だった.後半部では,気候変動・エネルギー問題などのグローバルな問題について,これからのエンジニアリングと科学がどう共同して取り組むべきかについて,かなり具体的で細かい話題にも踏み込んで論じていた.

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はじめは,科学と工学(本書の言葉ではエンジニアリング)の境界を強調する著者の意図がよく分からなかった.「知る」(=科学)と「解決する・つくる・やる」(=工学)は表裏一体のものとして考えればいいんじゃないの?と思い,ことさら分ける必要がなぜあるのか疑問だった.だが本書を読み終えて,なんとなく著者の言わんとすることがわかったような気がする.著者はべつに「エンジニアにもっとリスペクトを」ということが言いたいのではなくて(そういうことも一部書いているが),科学に大して,本来その役割でないこと(=「問題を解決すること」)が期待されてしまっている現状があり,それが誤解であることを主張したいのだ.また,よくある「科学者vsエンジニア」と捉え方も正しくなくて,科学と工学は一人の人に同居してよく,問題に対する2つのアプローチと捉えればよい.(本書にはアインシュタインが冷蔵庫の開発に関わったというエピソードがでてくる).問題は,科学(理学)の側の人が,「自分には工学は関係ない」と切り捨てていないか,ということなのだと受け取った.このような主張ならかなり共感できる.

*以前,コンピュータサイエンスは科学になりうるか,という議論があったことを思い出した.そこには,科学になることが明らかに「昇格」することだというふうな気持ちがあったように思う.このようなメンタリティは本書で書かれていたことと合致する.個人的には,コンピュータサイエンスは良いとして,最近流行の「データサイエンス」は「科学」でいいのか,というのも気になっている.

**もう一つこの本を読んでいて気になったのは,「科学」の意味について.この本で著者のいう「科学」とは,純粋に知的好奇心を満たすようなもの,あるいは工学で得られた知見を理論として体系化したものだったように思う.著者の主張では,そのような科学だけでは不十分であり,①科学をつくる現場において,そして②実世界に科学を応用する場面において,「+工学」が必要になる.しかし,一般に「科学」という言葉が使われるときには,工学も一部含んだような意味で使われることもあるように思う.H.Douglasの本では,科学にも価値が重要ということが書かれていた(”value free”ではなく”value laden science”)が,そこでの「科学」は,後者の意味に近いように思う.言葉の使い方には要注意かもしれない.

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