03.24
Sun
![]() | 「科学にすがるな!」――宇宙と死をめぐる特別授業 (2013/01/26) 佐藤 文隆、艸場 よしみ 他 |
理論物理学者の佐藤文隆と,艸場よしみさんというライターとの対談.
予想をはるかに超えて面白かった.
「自然や物質の成り立ちを突き詰めた科学者は,死ぬことについてどう考えているのだろうか」という漠然とした疑問を抱えた艸場さんが,佐藤文隆という学者にその疑問をぶつけてみようと思い立つ.この本は,艸場さんが佐藤文隆に送りつけたメールの文面から始まり,それから1年の間に二人が交わした7回対談の様子を記録している.
佐藤文隆の最初の対応が,とことんひねくれていて笑える.「死とはなんですか」と聞くと「それは科学の問題ではない」と突っぱね,それでは科学のことを聞こうと「宇宙の始まりはどうなっているのですか」と問えば,「そんなことを知っても意味がない」と.インタビューアーの問題意識に対する佐藤文隆の答えは,「科学にすがるな!」というものだった.けれど,艸場さんが,毎回の「講義」を反芻して,熱心に復習して次の対談に臨むうち,だんだんと話の中身も量子力学とか宇宙論の話になっていく.そして,インタビューアーの中で,次第に佐藤文隆という学者の学問観が分かり始めていく,という本.
このインタビューを持ちかけるのに,佐藤文隆は最適任者だった思う.というのも,彼ほど「一般の人にどうやって科学について語るか」ということに,苦心してきた人はいないだろうから.
本書のあとがきで書いているが,佐藤文隆はかなり精力的に一般向けの本を書いたり講演を行ってきたが,「一般人が科学に期待すること」と「科学者の実感」がかなりずれていることを実感してきたという.ブラックホールや時間の起源について知りたがるが,「科学的に知る」ということを理解しようとしない人々...
だからこの対談では,インタビューアーの艸場さんの「科学者から答えを引き出す」という目的の裏で,佐藤文隆のほうにも「一般人に科学の実像を伝える」という目的意識があって,彼自身も対談に乗り気なのが分かる.両者が思惑が交錯し,それが最初はかみ合わない.そのすれ違いから,佐藤文隆が怒り出したり,艸場さんが困惑したりする場面もあって,どきどきする.
インタビューアーが佐藤文隆を選んだのは,運なのか,するどい嗅覚がなせるのか.ほかの学者だったら,もっと平凡な対談本で終わっていただろう.あと,単著の中では分からない佐藤文隆の「人となり」がうかがえてとても面白かった.やっぱり,学者のなかの学者という感じで,かっこいい.
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![]() | 夢を売る男 (2013/02/15) 百田 尚樹 |
出版業界を舞台にした小説.
主人公は,とある出版社の編集部長.
ところがこの出版社は,出版にかかる費用を著者と出版社と著者とで折半するという方式をとっていて,つまり本の売り上げよりも,著者からの出費で儲けている会社.主人公の仕事は,人をその気にさせて,自己負担つきの出版契約を結ぶことである.物語の前半では,ブログや同人誌で文章を書く「著者候補」を主人公がカモにしていくエピソードがいくつか展開し,後半ではこのような出版ビジネスを真似る後発の会社が現れ,その会社と血みどろの争いが始まる....というストーリ―.
主人公は,「著者」のことを「客」と呼び,「俺たちの仕事は客に(自分の本が書店に並ぶという)夢を売ることだ」と公言するような男だが,そのようなあくどい商売に転身する前は,老舗出版社で編集長をしていた,という設定.本の半ばで,その主人公が出版業界の生態について語る場面があり,その語りがリアルだった.
「ブラックな出版ビジネスに手を出した編集者」を描くことによって,昨今の出版業界の行きづまりを分かりやすく描いた小説だと思う.ただ,いろんな人を複雑な気持ちにさせることは確実.とくに(自分含め)本が好きな人や,ブログで文章を書いているような人に牙をむきます(笑.「小説家志望者は読んではいけない」という帯はうまいと思った.
03.20
Wed
![]() | 工学部ヒラノ助教授の敗戦 日本のソフトウエアはなぜ敗れたのか (2012/12/19) 今野浩 |
学部の4年間をすごした筑波大が舞台だと聞いて,書店で手に取ってみた.
立ち読みしただけだが,面白かったのでメモ.
著者は,筑波大が出来たての頃―まだつくばエクスプレスも,東大通りもない頃―に,情報学類の助教授として赴任したらしい.国際的に通用する新しい大学として期待された筑波大.しかし,開学当初の筑波大では,関係者のエゴや謀略がうずまき,激しい抗争があった.当時の学類編成をめぐる諍いに,著者が巻き込まれていく様子が(すばらしい記憶力で)描かれている.
筑波大が出来た背景には,いろんな「大人の事情」があったのだということはなんとなくは聞いていたが,全然知らなかったことも書いてあった.とくに面白いのは,筑波大の情報学類は,それまでのハードウェアを中心とした情報学部と一線を画した,ソフトウェア寄りの研究拠点として構想されていたということ.著者は,この構想が実現していれば,日本のソフトウェア研究は遅れを取らずに済んだのに,とまで言っているが,本当なのだろうか?そして,その構想をつぶす要因の一つが,「物理学帝国主義者集団」だったという.(物理学科卒としては複雑!)
「ヒラノ教授」シリーズは何冊も出ている.が,中でも著者は筑波大時代のことが実は一番書きたかった,というようなことをあとがきで言っている.しかし,あまりにも筑波大の暗部を描く内容になるので,知り合いの子息が卒業するまで出版を待ったのだとか.
著者は筑波大の助教授から東工大の教授へと「エクソダス」を果たした(僕も東工大の院へ進んだのでちょっと親近感を覚えた)というが,その後,筑波大はどうなったのだろうか?筑波に残っている友人や恩師などから話を聞くに,筑波大にはまだまだダークな部分が残されているような気がする.
03.11
Mon
舞台はとある共学高校の数日間.運動神経抜群で,人望も厚い「桐島」が部活を辞めたらしい,という事件が,その周りの高校生たちに波紋を広げていくというストーリー.登場人物たちは,桐島のような存在に憧れながら,桐島にはなれない自分を,どうにかして肯定しようともがく.ある者はスポーツで.ある者は楽器の演奏で.ある者は彼氏をつくることで...
いやー.そうだ,こんなだったなあ.と自分の高校時代がフラッシュバックする.思えば,高校時代は大変だった.気の合う友達とだけ付き合っていられた大学生と違って,価値観も目指すものも違う人たちと毎日顔を合わせなければいけなかった.そのなかで感じた優越感や劣等感,克己心や絶望は,大人になった後でも残っている.個人的な見解だが,人は少なからず「彼らと私は違うが,それでかまわない」という割り切りや,「あいつらには負けない」という敵対心などをもっていて,その起源にさかのぼると大概,高校時代に行きつく(ような気がしている).『桐島~』は,そうした感情がまさに渦巻く現場を映像化している.
高校時代を思い出して感傷的になるというより,今の自分が揺さぶられる映画だった.
この映画を身に詰まらせて観るのはどの世代までだろうか,ということにも興味あり.どうなんだろう.
いやー.そうだ,こんなだったなあ.と自分の高校時代がフラッシュバックする.思えば,高校時代は大変だった.気の合う友達とだけ付き合っていられた大学生と違って,価値観も目指すものも違う人たちと毎日顔を合わせなければいけなかった.そのなかで感じた優越感や劣等感,克己心や絶望は,大人になった後でも残っている.個人的な見解だが,人は少なからず「彼らと私は違うが,それでかまわない」という割り切りや,「あいつらには負けない」という敵対心などをもっていて,その起源にさかのぼると大概,高校時代に行きつく(ような気がしている).『桐島~』は,そうした感情がまさに渦巻く現場を映像化している.
高校時代を思い出して感傷的になるというより,今の自分が揺さぶられる映画だった.
この映画を身に詰まらせて観るのはどの世代までだろうか,ということにも興味あり.どうなんだろう.
下記ブログからこちらへ引越しました.
http://rmaruy-blog.cocolog-nifty.com/
引っ越しの理由は,他のブログを見ていてfc2の方が使いやすそうだったのが一つですが,
まっさらなところからもう一度やり直したいというのが正直なところです.
これを機に,もう少しは読むに耐える文章を書くことを心掛けたいです.
相変わらず,読んだ本の感想や,日々感じたことを書いていくと思います.
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引っ越しの理由は,他のブログを見ていてfc2の方が使いやすそうだったのが一つですが,
まっさらなところからもう一度やり直したいというのが正直なところです.
これを機に,もう少しは読むに耐える文章を書くことを心掛けたいです.
相変わらず,読んだ本の感想や,日々感じたことを書いていくと思います.